【監修者:管理栄養士 坂本圭子】
私の母は牛肉料理をするとき「腐りかけが美味しい」と言い、冷蔵庫から出して常温にかなりの時間置くのですが、これって正しいのでしょうか?
レシピ本で「常温に戻す」と書かれているのはよく見ますが、具体的には何時間くらい放置しても大丈夫なのでしょうか?
牛肉を常温に置くことについて、正しい情報を調べてみたいと思います!
- 牛肉は常温に置いても大丈夫?焼く前に常温に戻す時間と方法も紹介
- 牛肉が腐るとどうなる?傷んでいる状態の特徴
- 調理前や調理後の日持ち期間
- 美味しさを保てる正しい保存方法と日持ちレシピ
私の母が牛肉を常温放置するのを見て、一番心配なのが食中毒です。
目には見えない菌がウヨウヨと増えていたらどうしようと考えてしまうのですが、実際はどうなのでしょうか?
冷凍した牛肉は常温解凍するとドリップが出てしまうなど、取り扱いについてわからないことがいろいろありますよね。
「ドリップが出ないうちに」と焦って焼くと、中が冷たくて上手に焼けないのも悩みです。
今回は牛肉についてわからないことを丸ごと調べますので、情報を共有しましょう!
管理栄養士・栄養士
目次
牛肉は何時間も常温放置できない理由とは?常温に戻すのは大丈夫?
まず「常温ってどんな場所だろう?」と考えてみると、私がイメージするのは、冷蔵庫でも冷凍庫でも無い場所全部です。
でも、”雪が降る冬や春先の屋外”も”夏場の炎天下に駐車した車内”も「常温」となると、環境が違い過ぎますよね。
食品衛生法などで「常温」の正しい意味を調べてみると、実はこんな場所でした。
- 15℃~25℃
- 温度が一定の場所
- 直射日光が当たらない など
結構限定されているんですね。「常温」について正しい知識を持っている方の方が少ないのでは?と思います。
今回は私たちがより安全に牛肉を食べるために、冷蔵庫や冷凍庫じゃない場所全部を「常温」と考えてお話ししていきますね。
まずは、さまざまな「常温」の状況を想定して”何時間くらいなら牛肉が安全に食べられるか”を調査してみました。
政府などが発表している情報では、”冷やして保存”・”加熱して食べる”などの注意喚起は数多くあります。
でも、常温に置いてもいい明確な時間については情報がなく、答えは出ませんでした。
次に「何時間も常温に置いた牛肉が食べられるかどうか」という視点で口コミを調査して、世間の声もまとめてみたので、ご一緒に見てみましょう!
何時間も常温に置いた牛肉でも「食べられる」という口コミ
- 冬に新鮮な牛肉を買って2時間くらいなら常温に置いても大丈夫だと思う
- 冷蔵庫に入れ忘れて一晩経ったら、夜間の室温が低ければ状態を確認して食べられる可能性がある
何時間も常温に置いた牛肉は「食べられない」という口コミ
- 夏の車内に牛肉を放置したら1時間もたないと考えた方がいい
- 夏に2時間~3時間常温に置いたら、臭いなどが変じゃなくても食べない方がいい
- 夏の車内に牛肉を4時間半置いてしまった。見た目は変わってなかったけど捨てた
- 半日くらい(5時間~6時間)常温に放置してしまった牛肉が茶色くなったら食べない方がいい
- 常温で丸1日経ったスライスの牛肉は、夜間の温度にもよるけど食べられないと思った方がいい
温度などの状況別に慎重に判断している方が多いとわかりましたが、やはり「生の牛肉は何時間までなら常温に置いてもOK」という確実な情報はありません。
牛肉は何時間も常温に置くべきではない理由
政府などから公表されている情報が無い以上は、「生の牛肉は何時間までなら常温放置してもOK」とは言えないのですが、食中毒菌や寄生虫について調べていくと、常温に置かない方がいいことがはっきりしてきました。
厚生労働省などが出している文章から、牛肉についている食中毒菌や寄生虫をご紹介します。
牛肉についている食中毒菌
- 腸管出血性大腸菌
- サルモネラ菌
- リステリア・モノサイドゲネス
- カンピロバクター など
*主に牛肉の表面についています
牛肉についている寄生虫
- サルコシスティス
- 肝蛭(かんてつ)
- 無鉤条虫(むこうじょうちゅう) など
*主に消化器官内や内臓についています
ご紹介したような食中毒菌や寄生虫は、牛肉の鮮度に関係なく存在します。
一般的に温かい場所では菌が増殖しやすく&寄生虫が活動しやすくなるため、「生の牛肉を常温に置くのはダメ」と考えた方が安全ですね!
それぞれの菌や寄生虫によって詳しい増殖や活動の条件が違いますが、牛肉をより安全に食べるために、下記の点を守って頂けると幸いです。
- 常温ではなく冷蔵庫か冷凍庫で保存
- 清潔な手指や調理器具で牛肉を料理する
- 生の牛肉に触れた手指や調理器具はすぐに洗う
- 牛肉の表面をよく加熱する(75℃で1分以上が目安)
- 牛肉の内臓は中心部までしっかり加熱する
冒頭でお話しした私の母のように、腐りかけが美味しいと信じて牛肉をしばらく常温に放置するのはやめましょう!
「腐りかけが美味しい」という情報の正しい意味は、下記のとおりです。
お肉屋さんがかなり大きな塊の状態で牛肉を保管し、わざとカビが生えるほど置くと、赤身の部分が熟成されて濃密な味になります。
「腐りかけが美味しい」というのは、表面の腐った部分を取り除いて「熟成肉」として販売されている牛肉のことです。
私たちがスーパーで買うステーキ用の一枚肉などは、熟成が済んだ状態で売られています。
さらに熟成させる必要はなく、もし熟成させようとした場合は危険な状態になりますのでご注意下さい。
冷蔵庫を過信しないことも大切!
冷蔵庫の中(10℃以下)では菌や寄生虫が活動しにくくなり、冷凍すると活動が一旦止まります。
ただし冷蔵庫や冷凍で保存しても菌や寄生虫が死滅するわけではありませんので、常温に戻すと活動が再開することも覚えておきましょう!
冷凍した牛肉を常温解凍&放置すると、また食中毒の危険性が高まります。
冷凍牛肉を解凍する時は、料理する前日に冷凍庫から冷蔵室に移動しておき、低い温度で自然解凍させて下さいね。
牛肉を触ってみて中心部まで弾力があれば、解凍されています。
牛肉を常温に戻す時間と正しい方法
ステーキなどを焼く前には冷蔵庫から出して常温に戻しておかないと、外側と内側の温度差がありすぎてうまく火が通らないのに・・・。
牛肉を常温に置くのがダメなら、常温に戻すのもダメじゃない?と感じますよね。
でも実際は、常温に戻すのにかかる時間は下記の表が目安で、室温によっては肉の状態を確認して、もっと短時間になる場合もあります。
食中毒症状が発生するほどの菌数に増えるまで放置するわけでは無いので、ご安心下さい。
牛肉の状態 | 常温に戻す時間の目安 |
1枚肉 | 30分~1時間 |
塊肉 | 1~2時間 |
*夏場で室温が高い場合は、表の時間の半分が目安です。肉の表面が冷たくなければ、料理を開始してOKです。
牛肉につく食中毒菌や寄生虫は「肉の内部まで入り込むことはない」と言われていて、レアで食べてもOKとされています。
常温に戻した牛肉の表面をしっかり加熱することで、食中毒菌を死滅させて安全に食べられる状態になります。
牛肉を常温に戻す方法
常温への戻し方は牛肉を冷蔵庫から出してラップをし、置いておくだけでOKなのですが、下記の点にご注意下さい。
- 牛肉が重ならないように皿などに置く
- 牛肉を汚れた手指や食器などに触れさせない
- 直射日光が当たらない場所に置く
「牛肉を冷蔵庫から出し忘れた!」なんていうときは、レンジで早く常温に戻す方法もあります。
- 耐熱容器に牛肉を乗せてラップをする
- 低温(200W)で30秒温める
- 裏返して同様に30秒温める
- 肉の表面がまだ冷たければ、10秒ずつ温め時間を追加する
レンジの機能によって温まり加減が違います。牛肉の状態を見ながら、少しずつ温めてみて下さい!
ちなみに、完全な生肉や生の内臓については、以前に焼き肉店で牛レバーやユッケが原因の食中毒事件があり、死亡者も出ています。
現在は飲食店で下記のような牛肉料理を提供することが法律で禁止されていますので、当然ご家庭でも食べないで下さいね。
- 表面を切り取るなど一定の処理をしない生牛肉の提供
- 牛の生の内臓の提供
牛肉は常温放置できないとわかり、これからは買ってからの持ち歩き時にもなるべく冷やすように気をつけたいと思います。
ここでもう一つ気をつけたいのが、劣化して食べられなくなってしまった牛肉の見極めです。
自分で食べられるかどうかを判断する必要があるので、腐った牛肉の見分け方もご紹介します。
牛肉は腐るとどうなるの?傷んだ時の見分け方や目安がコレ!
お肉を腐らせた経験がある方は多いと思います。でも高いお肉が怪しい状態になったときは、簡単に捨てられないですよね。
絶対に食べてはいけない牛肉の見分け方をご紹介しますので、チェックしてみて下さい!
見た目、触った感じ
- 表面に粘りがある
- 表面を触ると糸をひく
- 茶色に変色(腐っていない場合もアリ)
- 緑色に変色
- 灰色に変色
- ドリップにとろみがある
臭い
- 生臭い
- 酸っぱい臭い
- アンモニア臭
味、食感
- 酸っぱい
- ぬめりがある
- 気持ち悪い味
生の牛肉が腐るとひどい臭いがするので、「食べちゃダメ」と判断する目安になります。
ただし茶色の変色については、腐っているサインでは無い場合もあるのでご注意下さい。
私たちがよく見る牛肉の赤色は、本来は茶色い肉が酸化して出た色です。
牛肉が折りたたまれている、重なっているなどで茶色く変色している場合は、パックから出して30分ほどすると赤色に変色します。
新鮮なはずの肉が茶色く変色していたら、臭いなども確認して、食べられるかどうかを判断なさってみて下さい。
次に、牛肉を買ってきてからの日持ちを調べてみます。
スーパーの牛肉には消費期限や賞味期限が書かれていますが、実際は少しくらい過ぎても食べられる場合もありますよね。
腐るまでの期間をチェックして、献立の参考にしましょう!
牛肉の日持ち期間はどれくらい?調理前や調理後など調査!
私は牛肉のパックに書かれている消費期限や賞味期限が切れても、すぐには捨てません。
消費期限切れなどでも、加熱すれば1~2日は食べられる場合が多いと思うのですが、実際の日持ちはどれくらいなのでしょうか?
調理前だけではなく、調理後の牛肉についても日持ちを表でご紹介します。
牛肉の状態 料理名 |
日持ち | |
調理前 | 冷蔵庫に入れる | 最長3日 |
真空チルドに入れる | 3日 | |
冷凍庫に入れる | 2週間~1ヶ月 | |
解凍後 | 最長3日 | |
調理後 | ステーキ | 2~3日 |
焼肉 | ||
ハンバーグ | 3~4日 | |
カレー | 4~5日 | |
牛肉とごぼうのしぐれ煮 | 1週間 | |
佃煮 |
*調理後については、冷蔵庫での日持ちをご紹介しました。
生の牛肉だけではなく調理後の牛肉料理も、常温では日持ちしません。
特に夏はクーラーがついている部屋でも25℃以上の温度が続くことがあり、数時間で腐ってしまう可能性もあるのでご注意下さい!
食中毒菌の中には、しっかりと加熱しても死滅しない菌もあります。
「ちょっと怪しいけど温め直せば大丈夫」と軽く考えず、少しでも変だと感じたら食べないで下さいね。
消費期限は「安全に食べられる」期限
スーパーなどで売っている牛肉には、消費期限が書かれているのが一般的です。
冷凍や真空パックなどでの販売であれば、賞味期限が書かれている場合もありますね。
消費期限と賞味期限の正しい意味をご紹介します。
- 消費期限:未開封で保存方法を守った場合の、安全に食べられる期限
- 賞味期限:未開封で保存方法を守った場合の、美味しく食べられる期限
消費期限は安全性が確保されている期限です。
今回ご紹介したように期限が過ぎても食べられる場合がありますが、保存環境などによって牛肉の状態は変わります。
下記の点にご注意下さい。
- 間違った保存方法では、消費期限内でも変色や異臭などがして食べられない状態になる可能性がある
- 牛挽肉、合挽き肉は塊肉よりも早く劣化する。常温放置は絶対にNGで、冷蔵庫に入れた場合も日持ちは短い
一番安全なのは、食べきれる分だけ買ってすぐに調理し、なるべく早く冷やして保存することです。
生の牛肉も牛肉料理も、自分の五感を信じて厳しく判断していきましょう!
最後に、牛肉の日持ちに大きく関わる正しい保存方法をご紹介します。
牛肉を美味しく食べられる日持ちレシピもご紹介するので、最後までチェックしてみて下さい!
牛肉の正しい保存方法とは?日持ちするレシピも紹介!
何度もしつこいようですが、牛肉は常温保存ができません。
牛肉を買ったらできる限り冷やして持ち歩き、必ず冷やして保存しましょう!
牛肉の美味しさを保つ保存方法
牛肉に含まれている脂は、空気に触れると酸化してしまいます。
牛肉の新鮮さを保つには、買ってきたらなるべく早く空気に触れさせない環境を作るのがポイントです。
冷蔵庫での保存方法
- 牛肉をパックから出す
- キッチンペーパーに包み、表面の水分を吸わせる
- 牛肉からキッチンペーパーをはがし、ラップに包む(なるべく空気が入らないように)
- ジップつきの保存袋に入れて、空気を抜いて密閉する
- 冷蔵庫で保存
5℃以下での保存が安全です。冷蔵庫内でよく冷える場所に置いて下さい。
食品が凍らないタイプのチルド室であれば、チルド室でもOKです。
冷凍での保存方法
牛肉の変わらない美味しさを楽しむためには、なるべく新鮮なうちに冷凍するのがポイントです。
スーパーなどで買ってきたパックのままではなく、冷蔵庫での保存方法と同じように冷凍なさって下さい。
ちなみに、なるべく早く凍らせる方が美味しさを保てるので、金属製のトレーなどがあれば牛肉が凍るまで乗せて置きましょう。
挽肉は平らにして保存すると速く凍ります。
常備菜にもOK!日持ちレシピ
牛肉が日持ちするレシピには、3つのポイントがあります。
- 料理が完成したらなるべく早く粗熱をとって冷蔵庫に入れる
- 清潔な容器や取り箸を使う
- 塩分や糖分を濃く味付けする
アレンジが可能で日持ちする甘辛煮をご紹介します。
甘辛煮
【砂糖:しょうゆ=1:1】の割合で牛肉を煮付けます。煮汁がなくなるまで、しっかり煮詰めて下さいね。
甘辛煮は、さまざまな料理にアレンジ可能です。
- 山椒やしょうがを入れて味を変化させる
- 卵で閉じて丼に
- ゴボウや豆腐などを加えて肉豆腐に
- キムチチャーハンの具に
- 大根おろしと一緒にサッパリと食べる など
冷蔵室で1週間、冷凍で1ヶ月ほど日持ちするので、多めに作って常備菜にも便利です。
甘辛煮さえ作っておけば、料理の手間が大幅ダウンしますよ!
まとめ
牛肉を常温に置いたらどうなるのかを、詳しくご紹介しました。ポイントをまとめてみます!
- 生の牛肉は常温に長時間放置してはいけない!
- 常温に戻す場合は30分~1時間(夏は半分の時間)が目安
- 腐ると変な臭いなどの変化がある
- 冷蔵庫で3日ほど日持ちする可能性があるが買ったら早く食べ切るのが安全
- 調理後も常温保存せず、なるべく早く冷やして保存して食中毒を予防する
- 空気に触れないように保存するのが新鮮さを保つポイント
- 日持ちするレシピとして甘辛煮がおすすめ。アレンジもきいて常備菜に便利
今回は、「牛肉は腐る寸前が美味しい」という話を信じて家庭で牛肉を常温に置くのは危険だとわかりました。
家庭で常温に置くと、美味しくなるどころか食中毒の危険性が高まります。
必ず低温で保存することはもちろん、肉は表面をしっかり加熱・内臓は中心部まで加熱するよう気をつけていきましょう!
買うときには既に食べ頃の状態になっているので、今回ご紹介した保存方法などを参考に、なるべく早く料理をできるといいですね。
最近は国産よりも割安な輸入牛でも、美味しいものが手に入ります。
安全面に気をつけて、これからも牛肉を楽しんでいきましょう!