ここのところ、政治家による問題発言が目立ちますよね。
そんな中で昨年は、政治がらみの「忖度」という言葉が、流行語大賞に選ばれたことも記憶に新しいです。
普段はなかなか使わない言葉ですが、あれから見聞きする機会がぐーんと増えましたよね。
私も最近、小学生の息子からこんなふうに聞かれました。
「ねぇ、そんたくってどういう意味なの?漢字でどう書くか教えて」
でも、ぱっと答えられずに「えっと、忖度の意味はね…。」と口ごもってしまいました。
この「忖度」という言葉の意味、正確に説明できるでしょうか?なんとなくはわかっていても、きちんと説明しようとすると案外難しいものですよね。
そこで今回は、忖度の意味のほかにも、以下のとおり少し掘り下げて調査してみました。
- 忖度(そんたく)はどんな場面で使えるの?
- 忖度の意味を分かりやすく説明してみよう
- 家庭や職場で使える「忖度」を使用した例文を紹介
- 政治の世界では忖度の意味が間違っている!?
- 「斟酌(しんしゃく)」と「忖度」は似ているようで違う
「忖度」という言葉について、小学生でもわかるように説明したいと思います。例文や豆知識などもあわせて紹介しますので、楽しく読んでみてくださいね。
もしも人に説明する機会があれば、ドヤ顔で説明しちゃいましょう!
目次
忖度(そんたく)って、どんな場面で使えるの?わかりやすく解説
日常生活で登場したことのない言葉が、ある日突然現れて、みんなで一斉に使い出すということがありますよね。
たいていは、良くも悪くも有名な人たちが使ったことで、注目されて世間に広がっていきます。
「忖度」もその一つで、私たちが普段使うことがなかった言葉です。
「忖度」という言葉が知られた原因は?
2017年の前半に「森友学園問題」が世間に注目され、政治的にも問題になっていました。
そろそろ忘れかけている人のためにも、「森友学園問題」を簡潔に説明しておきますね。
この問題は、あるニュースの特番で、「森友学園が国有地を大幅に値下げしてもらって購入したこと」が取り上げられて、世の中に知れ渡ることになりました。
実は私、その特番をたまたま見ていたんです。そのニュースを見て「へぇ~こんなことが通るのかい?」と不思議に思っていたのを覚えています。
この大幅値下げの土地購入に関して、取り上げられたことをきっかけに、森友学園と安倍首相の関係が疑われ、不当な値下げが行われたのではないかという話が出てきました。
その中で、森友学園の当時の理事長だった籠池氏が「土地の売買に関して忖度があった」と述べたことから、「忖度」という言葉が注目され始めました。
「忖度」の意味と使い方
「忖度」を辞書で調べてみると「相手の気持ちを推し量ること」と書いてあります。そして「推し量る」とは、「あることについて想像し考える。推測する。」とありました。
小学生にもわかるように説明すると、相手の様子などを見て「多分こうじゃないかなぁ」と考えたり、想像することが「忖度する」という意味なのです。
正直、こんなふうに普段の会話で使うことはありませんが、使い方の例としていくつか紹介しておきますね。
「○○君の誕生日のプレゼントに、○○君の気持ちを忖度して、ゲームを買った」
「疲れた顔の母の気持ちを忖度して、夕食を作っておいた」
「緊張気味の後輩を忖度して、アドバイスをしてあげた」
このように、相手の心持ちを考えて、思いやりのある行動をすることが、「忖度する」という言葉の正しい意味です。
忖度の意味を分かりやすく説明してみよう
「忖度」の意味が「相手の気持ちを推し量る。想像すること」とわかったところで、せっかくなのでもっと深掘りしてみましょう。
「忖度」の語源は、中国の古い言葉
忖度は、古代中国の詩経に出てくる言葉で、
「他人心有り、予(わ)れ之(これ)を忖度す」
から来ています。
そして、「忖」と「度」のそれぞれの意味も確認しておきましょう。
【「忖(そん)」の意味】
「はかる、おしはかる」りっしんべんは心臓の形を表し、寸は手首の脈を測る意味を表す
【「度(たく)」の意味】
「はかる、おしはかる、めもり、ようす」手で物を測る意味を表す
ここから「忖度」とは、感情(心臓)の起伏や強い思いなど、人の心の動きを推し量る、推量するという意味になったと考えられます。
ちなみに「度(ど・たく)」は小学校3年生で習いますが、「忖(そん)」は、小学校では習いません。私たちもあまりなじみのない漢字ですよね。
忖度は日本の文化に合っていた
中国に語源を持つ「忖度」ですが、日本に伝わったのは、10世紀ごろのことです。
その後、日本の文化にも根付いて現在に至っていますが、実は「忖度」は適切な英訳がないのです。
それは、欧米では忖度をするという行為が、あまりないことだからだと考えられています。
狩猟民族が中心だった欧米と違い、日本は農耕民族が中心でした。農業をするためには、お互いの協力が必要だったので、村社会のつながりがとても重要でした。
「お互いに何事もいさかいなく、仲良く協力する」ことを大切にして、みんなが生活していたのです。そんな中で、相手の気持ちを推し量って生きていくことは、当たり前のようになっていました。
欧米のように、個人主義で自分の意見や主義を前面に出すことはなく、「忖度」することは、村社会の中では当然だったのです。
このような時代背景の中で、「忖度」することを自然に身につけてきた日本人。そんな日本人は、今でも案外多いと思いますよ。
忖度することが、悪いのかいいことなのかは別として、「忖度」は外来語ですが、日本社会にとてもなじんだ言葉の一つなのです。
そのなじんだ言葉が改めて注目された機会に、皆さんも少し日常会話に取り入れてみてはいかがでしょう。次章では、「忖度」の例文を紹介します!
忖度はこんな時に使える!家庭や職場で使える例文を紹介
「忖度は」日常ではめったに使わない言葉ですが、せっかく覚えたので少し使ってみましょう!
職場で忖度!
お得意様や取引相手との話し合いのあとの上司への報告
「○○様の意向を忖度して、このように決定いたしました」
「○○会社様に忖度したところ、契約が成立しました」
顧客との会話の中から、顧客が求めることを見出して仕事に生かしていくことは、とても積極的な忖度ですね。
仕事場での雑談や会議で
「あいつはいつも上司に忖度しているが、自分の意志で決められないのだろうか」
「社長の話していた内容から忖度して、今度のプロジェクトを決めました」
少しおべっかを使っている雰囲気もある使い方ですが、間違ってはいません。
家庭や日常生活で忖度!
「父の気持ちを忖度して、家業を継ぐことにした」
父親の期待に応えたいという気持ちから出た行動ですね。
「彼は、相手のことを全く忖度しないで行動する」
相手に対する思いやりがないと怒っている言葉です。
「彼女のしぐさや話から忖度して、クリスマスプレゼントを買う」
普段から、彼女の様子をよく見ている彼氏の優しさですね。
「失恋した友人の気持ちを忖度して、バカ騒ぎを一緒にする」
一人ではつらいだろうから、ただ一緒に騒いで、元気を出してもらおうという思いからの行動です。
「今日の夕飯は、子供の思いを忖度してハンバーグにする」
大げさに言っていますが、こういう忖度は母親ならいつでもしています。子供の喜ぶ顔を見るのが一番の幸せですものね。
「忖度」ってちょっと硬い言葉ですが、使っているうちに、意外になじんできそうだと思いませんか。
たとえば、「あなたのことを思って」なんて照れくさくて言えないときに「あなたのことを忖度して」なら、すんなり言えそうですよね。
普段使わない言葉だからこそ、少しの笑いとともにすっと言えてしまいそうです。
家族や友人、職場の緩衝材として、「忖度」は使えるかもしれませんね。
こんな時も、職場で忖度しているのかも?
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こんなふうに、一般庶民は穏やかによい言葉として考えていても、複雑怪奇な政治の世界では、また様子が違っているようですよ。次章でみていきましょう。
政治の世界では、忖度の意味が間違っている!?
今の「忖度」の生みの親ともいうべき、籠池氏の言った「忖度」は、政治的に力のある人の気持ちを推し量るという意味で使われました。
そのため、それ以降は「おべっかを使う」や「こびへつらう」などの言葉と、同義語のように扱われることが多くなっています。
政治の世界では、よくある話だと私は思っていますが、権力を握っている人のところには、気に入られたい人が集まってきます。
その人たちが皆、権力者の意向を反映させて政治的な「忖度」をして、土地の値段を不当に下げたり、大学学部の新設を許可したりするのではないでしょうか。
忖度とは、権力者に媚びて物事をうまく運ぶこと
政治の世界では、忖度は悪いことであるとしか思えませんね。
安倍総理は「忖度はなかった」と言いました。これは、「財務省の官僚は、安倍総理ご本人や奥さんの言わずもがなの意向をくんで、さまざまな働きかけをしたわけではない」という意味のようでした。
でも私にはどう考えても、「忖度」がなかったとは思えません。権力者にすり寄っている官僚や、一部の民間の姿が見えるようです。
また、政治ニュースの中でも「忖度」は、悪い意味として使われています。
本来の「相手の気持ちを推し量る」という意味が、まったくないがしろにされているのはとても残念です。
せめて私たちは、「忖度」を大切に使っていきたいものですね。
さて、ここまで「忖度」についていろいろとお話してきましたが「忖度」とよく似た意味を持つ「斟酌(しんしゃく)」という言葉があります。似ているのですが、同じではない二つの言葉について、次でお話しましょう。
「斟酌(しんしゃく)」と「忖度」は似ているようで違う
「忖度」と「斟酌」は、どちらも相手の気持ちを推察するという点では同じなのですが、同義語というわけではありません。
どういうことなのでしょうか?少し詳しく説明しますね。
「忖度」と「斟酌」の大きな違い
「忖度」は今までお話してきたように、相手の気持ちを推し量ることです。それにより、自分自身が相手に対して行動や言動を変えることが多くあります。
それに対し「斟酌」は、相手の気持ちや事情を推し量り、くみ取って何かしら取り計らったり手加減したりすることです。
そして、自分自身より相手への判断、相手の状況や相手の言動を変えることが多いという点が、「忖度」との大きな違いです。
以下で、二つの言葉の同義語を比べてみましょう。
・忖度…推測・憶測・想像・仮定・推論・みなす
・斟酌…酌量・考慮・手心・思いやり・考察・武士の情け
並べてみるとわかりやすいですが、忖度より斟酌のほうが人情を感じる表現になっています。
忖度と斟酌の違いをよりくわしくみてみよう
「忖度」の例文として、以下のような文章がありました。
「失恋した友人の気持ちを忖度して、バカ騒ぎを一緒にする」
これは、忖度している本人が「こうすれば友人が喜ぶだろう」という思いから、バカ騒ぎという行動をとっていると考えられます。
実際には、その友人がバカ騒ぎをしたいかどうかはわかりません。
これを「斟酌」を使った例文にすると、こんな風になります。
「失恋した友人の気持ちを斟酌して、一晩一緒に過ごすことにする」
同じように、友人の傷ついた気持ちを考えた行動ですが、この場合は、友人の心がどうすれば慰められるのかを、より深掘りして考えた行動です。
「バカ騒ぎがしたいのなら一緒にするけれど、一緒に悲しんでほしいならそうするよ」という、思いやりの気持ちが表現されています。
ほかにも「忖度」と「斟酌」の違いがあるので、わかりやすくまとめてみますね。
【忖度】
相手の気持ちを推量して、自分がどのように行動するかを自分の判断で決める。その行動が、必ずしも相手の希望していたことと同じとは限らない。相手との関係は対等か、自分のほうが少し下であることが多い。また、自分にも有利に働くことを計算する場合もある。
【斟酌】
相手の気持ちを推量して、どのように行動すれば相手にとって最良かを考えたうえで、何かしらの動きをする。相手にとってもその行動は、的を射ていることが多い。相手との関係は、対等か自分のほうが上(有利・恵まれている)であることが多い。自分の利益は考えていない。
東京オリンピックで注目された「おもてなし」という言葉は、どちらかといえば「斟酌」に近いようです。
日本人の気質は、昔から穏やかで思いやりがあるといわれています。「斟酌」は「忖度」よりも、日本人の美しい心持を表してくれている言葉だと、私は思います。
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まとめ
忖度についてお伝えしてきましたが、簡単にまとめておきますね。
- 「忖度」とは、「相手の気持ちを推し量ること」
- 「忖度」が注目されたのは、「森友学園問題」がきっかけ
- 「忖度」することは、もともとはそんなに悪い意味ではなかった
- 政治の世界で「忖度」は、「おべっか」のように使われていた
- 「忖度」は気持ちを推量し、「斟酌」は、気持ちを酌む
- 日本のおもてなし文化は「斟酌」に近い
「忖度」は悪い意味ではないのに、森友学園問題によって注目されたと同時に、悪い言葉として広まってしまったんですね!
世の中には、そのまま悪いイメージで理解している人も多いと思いますが、本来は、思いやりのある行動をとるときに使う言葉ということでした。
とくに私たち日本人は、人の気持ちを推し量り、思いやりの心を持って何かをすることは多いですよね。
間違った使い方をして、政治家のように違った方向へ行かないようにしたいものです。
普段使わない言葉でも、少し調べてみると面白いものですね。日本語は、とても表情豊かで細やかな表現が多く、私は大好きです。
せっかく日本語を話しているのですから、今回の「忖度」以外にも、美しく趣のある日本語に、もっとたくさん触れていきたいですね。