この間、両親に
「私達が死んだら、お葬式はしなくていいからね」
と言われました。
筆者としては、とても複雑な思いです。
親が亡くなったら……きちんとお葬式をして見送ってあげたい。
子供なら、誰でもそう思っているはずです。
- 仮に、お葬式をしないとすれば、どうやってその後を進めていけば良いのか?
- 火葬のみというやり方は可能なのか?
今回は、筆者の様に、親から、あるいは、大切な人から
「お葬式はしないでほしい」
と、遺言を残された場合にどうすれば良いのか等を一緒に考えていきたいと思います。
目次
お葬式をしないのは可能?その場合の流れはどうなる?
今の日本ではお葬式の義務はありません。
人が亡くなった際にすべきことは、「役所に死亡届を出すこと」だけです。
ですから、
というやり方も、可能なのです。
お葬式なしで「火葬のみ」を実施するときの流れ
- 病院で、エンゼルケアという遺体処理を行って貰う。
- そのまま葬儀社を頼む。
- 遺体を棺に安置する。
- 火葬場の手配や死亡届等の提出をする。
※ 死亡届の提出は、死亡してから7日以内と定められています。
この様に、葬儀を行なわず、火葬のみで済ませるというやり方を「直葬」と言います。
近年、直葬のみで済ませるという人が増加傾向にある様です。従来の「お葬式」という形式にこだわらない人達が増えた事が大きな理由だと考えられます。
では、こうしたやり方のメリットとデメリットをあげてみましょう。
お葬式なしで「火葬のみ」を実施するときのメリットとデメリット
- まず、お金がかからない。
- 香典返しをする必要がない。
- 参列者の対応をしなくて良い。
デメリット
- 全て、自分でやらなければいけないので大変。
- 親族に対して事前にきちんと説明する必要がある。
- 参列を希望される方から不満が出ることもある。
直葬には、メリットがある分、上記のようなデメリットがあるということも、しっかり覚えておきましょう。
特に、親族や参列を希望される人には、きちんとした理由を説明する必要がありそうです。また、全ての手続きを自分で実施しなければならないのです。
では、それらの手続きはどのくらい大変なのでしょうか? 次章で直葬の手順をご紹介します。
お葬式をしない選択をした後の手順
- 医師の死亡診断書を持って役所へ行く。
- 死亡届に記入捺印をする。
- 死亡届と死亡診断書を役所に提出する。
- 火葬許可証を受け取る。
- 火葬場を予約する。
- 火葬場で直葬する。
ここで終了です。
直葬するとなると、これらのことを全部自分でやらなくてはいけません。
死亡届の提出は、死亡してから7日以内と定められているので、期限内にきちんと実施する必要があります。
私達は普段、一人の人間の死亡に伴う色々なことを専門の人に、ほぼ全て任せているので、目に見えないところで何をしているのか、どういった手順で行なっているのか等、知らない事が多かったのですが、こうして見てみると、
自分だけで(しかも、期限内に)行うのは、なかなか大変なことが分かります。
一般的なお葬式と直葬で、費用はどれくらい違うのか?
あなたが気になるテーマとして、お葬式の「費用」があると思います。
一般的な形式の葬儀を行う場合、200万円前後の金額が必要だと言われています。
では、直葬をする場合、費用はどれくらいかかるのでしょうか?
- 葬儀社に手続きをしてもらう場合
葬儀社に依頼し、遺体を病院から火葬場に運んでもらい、火葬のみを行ってもらう場合で「20万円前後」
- 自分で全て手続きする場合
自分で(自家用車を使用し)、遺体を病院から火葬場に運び、自分で火葬のみを行う場合で「10万円前後」
直葬は、非常にシンプルな葬儀である為、葬儀社に頼んだとしても、費用は一般の葬儀に比べて10分の1くらいになります。
※最近では、小売業界のAEONが14万8000円で追加料金無しの火葬式を行っているらしいのですが、格安をうたうところのプランの中には、葬儀を行うのに必要な物品やサービスが含まれておらず、追加料金が発生することも有りますので、注意が必要です。
お葬式をしない決断‥あとで厳しい現実が待っている場合も
ここまで見てみると、直葬というやり方は、費用もかからず、手軽に出来るという事が分かります。
そういった事から、最近は直葬のみを行う人が増加傾向にある様です。
しかし、問題点もあるのも事実。
以下、第1章で説明した「直葬のデメリット」とも共通しますが、実際にどういったものがあるのでしょうか?
お葬式をしないときの問題点
- 自分の心の整理がつかない。
- 親族や周りの関係者からバッシングを受ける。
- 遺体の安置場所を確保しなげればならない。
- 寺院から埋葬を拒否される。
- 後のことが分からない。
では、順番に説明していきましょう。
自分の心の整理がつかない。
親が亡くなった時に、直葬のみを行なったという筆者の知人から聞いた話です。
お通夜、告別式といった形式的な葬儀では、その流れの中で少しずつ気持ちの整理がついていくものなのですが、直葬は、すぐに火葬してしまうので、
という状況に陥ってしまい、後々後悔する事があったと言っていました。
親族や周りの関係者からバッシングを受ける。
直葬のみを行った筆者の知人は、周りからのバッシングを受けたとも言っていました。
特に、親戚からのバッシングは精神的にキツかった様です。
「故人の恩を忘れて葬儀も行わないなんて、とんでもない奴だ!」と、散々非難されたそう。
直葬が増加傾向にあるとは言っても「人が亡くなれば葬儀を行うことが当たり前」「それが常識だ」という考えを持っている人が多いのが事実です。
その中で、直葬という選択をするのならば、周りからのバッシングを受けるという事を覚悟しておいた方が良いのかもしれません。
遺体の安置場所を確保しなげればならない。
日本の法律は、死亡後24時間以内の火葬を禁止しており、火葬場の空き状況によっては数日待たなくてはならない場合があります。
そこで必要となるのが、遺体の安置場所。
葬儀を行う場合は、葬儀社が遺体の保管から場所まで全て用意してくれるのですが、直葬ではそれも全て自分でやらなくてはいけません。
前もって、安置場所、保管方法等を確認しておく必要があります。
寺院から埋葬を拒否される。
埋葬を拒否されるというのはどういう事かと言うと、埋葬場所には、宗教的な考えも有り、葬儀を行わずに埋葬するというやり方に否定的な寺院が有り、そういった寺院では埋葬を拒否されてしまう可能性があるという事です。
実際、ある寺院に、直葬をした後、埋葬を依頼すると拒否されてしまい、依頼者側と寺院側が裁判沙汰になったという事例があります。
そうならない為に、前もって「直葬する」という事を、埋葬する寺院と話し合っておくべきでしょう。
後のことが分からない。
「後の事が分からない」という点ですが、葬儀を行う場合、知識を持った葬儀社が、後のことまできっちりとサポートしてくれます。
けれども、直葬の場合は、初七日、四十九日など、いつ、何をすれば良いのか分かりにくいことも、全て自分でやらなくてはいけないのです。
その為には、多少の知識と手間が必要になります。
最後に、これは筆者自信が考えるデメリットです。
直葬は、葬儀とは違い、時間も短く、シンプルです。それが故に、故人と充分なお別れが出来ない気がするのです。
最後に言っておきたい事も沢山あるだろうし、よく顔を見ておきたい…沢山の人に見送ってもらいたい。
そんな想いを、直葬では叶えられないように感じます。それに、いつまでも気持ちの切り替えが出来ないのではないか、とも思います。
筆者が、両親に、お葬式はしなくて良いと言われ、複雑な気持ちになったのには、こういった理由もあるのです。
お葬式をしないでも、親しい人には見送らせてあげたい
もしも、両親の希望通り、「お葬式を行わない」という選択をしたとしても、身近な人、親しい人には見送ってもらいたいですよね。
誰しもが、長い人生の中で大切に想ってきた人が居るはずです。
逆に、大切に想ってくれていた人が居るはずです。
お互い、きちんと最後にお別れが出来るように、残された皆で見送ってあげたいと、筆者は考えています。
そんな気持ちも含めて、両親の言葉や色々な条件を照らし合わせながら、もう一度、どうするべきか、どうしたいのかを考えたいと思います。
費用の高さで決める訳ではないのですが、こうして考えてみると、それほど値段は変わらないんです。
だったら、尚更、家族葬だけでもやってあげたい……という気持ちになります。
お骨をお墓に納めたり、自宅に安置するのは気持ちの整理にもなる。
筆者の両親は、お骨は海に散骨してほしいと言っています。産まれも育ちも海の町だったという母の希望です。
ただ、全て散骨してしまうのは、筆者の元に何も残らず、それはあまりにも淋しすぎるので、少しだけでも、自宅に安置させてもらえたらな…なんて考えています。
残された者が、気持ちを整理する為にも、お骨をどうするかということは、とても重要な事だと思います。
遺体を大学病院などに検体する事も出来る。
生前に、きちんと手続きしていれば、遺体を大学病院などに検体する事も出来るそうです。勿論、これなら火葬代も要らず、葬儀を行う必要はありません。
亡くなった後にも人の役に立てるというのは、とても立派な事だと思います。
ただ、その選択を、親族や残された者が納得するかどうか…
何よりも、それこそ、手元に何も残らなくなってしまう……
それはやっぱり、筆者としては淋しい様な気もします。
葬儀は、残された者の為に行うもの。
そもそも、葬儀は何の為に行うのでしょうか。それは、勿論、心のこもった最後で故人を見送ってあげる為だと思います。
しかし、今の自分の気持ちを考えた時に、残された者が、最後、きちんとお礼を言ってお別れが出来、気持ちの整理をつける為。という意味もあるのではないかと思います。
確かに、生前に残された言葉は大切ですし、本人の希望通りにしてあげたいという気持ちは有ります。
けれども、その結果、残された者が辛く悲しい思いをするのは、何処か淋しいような気もします。
そういった事を含め、葬儀は何の為に、誰の為に行うものなのかという事を、もう一度しっかりと考える事が必要なのだと思います。
葬儀・葬式ch 第42回「直葬・火葬のみについて」
まとめ
では、これまでの事を簡単にまとめみましょう。
- 葬儀をしない選択をするのは可能。ただし、それにはメリットとデメリットが有るという事を忘れずに。
- 葬儀をしない選択をした後でも、手順をしっかり踏むこと。全て自分でやるという事はかなり大変な事。
- 直葬は、一般的な葬儀に比べ、費用は安く10分の1以下になるケースもあり。
- 葬儀を行わないと決めた後には、厳しい現実が待っている事もある。
- 葬儀は、何の為に、誰の為に行うのかを、もう一度、よく考えてから決断を出すこと。
以上です。
確かに、最近では、直葬、火葬式、家族葬など、お通夜も告別式も行わないというプランが増えています。
価値観や考え方も多様化してきていて、法要にお坊さんを呼ばない事や、法要も行わずお墓も作らずに「個人を偲ぶ会」なんかを、定期的に行うというやり方も増えているようです。
葬儀、法要、お坊さんの読経等は、気持ちの問題だと思います。しかし、人の誕生と死というのは、一生に一度しかない、とても大切な事。
小さくても、費用が安くても良いので、心のこもった葬儀を行ない、見送ってあげるべきなのでは無いかと思いました。
筆者は、両親に言われた言葉を思いながら、この記事を書いてきました。そして、ここまで書き終わった今、思っている事は、
「やっぱり、せめて家族葬だけでも行いたい。」
という事です。
自分が、何よりも大切に想っている両親です。最後は、これまでのお詫びとお礼を言いたい。
そして、きちんとお別れをしたい、そういった気持ちは、どうしても譲れません。
後で後悔しない為にも、しっかりと考えてから、選択をする事が、大切です。