小切手に手形に…と、事務職に就いていると支払方法もたくさんあって、覚えるのも大変ですよね。普段の生活では扱うことのないものなので、とにかく手順として覚えていくばかり。よく分からずに手順だけを覚えて仕事をしていると、「何でこっちはOKでこっちはダメなの?」という場面も多々あります。
例えば「小切手には収入印紙が必要ないのに、約束手形には必要…。どっちも似たようなものなのに、なんで?」と思ったことはありませんか?
簿記の資格がないけど事務職をしている方やアルバイトで事務職をしている学生さんなど、経験が浅く知識も追いつかない頃は、ひたすら覚えるばかりで理解が追い付かなくなりがちですよね。
私も事務として採用されたばかりの頃は、とにかく覚えるだけで手一杯でした。けれど、簿記を勉強して「どうしてこれが必要なのか」という理由を知ったら、仕事がとてもスムーズになりましたよ。
そこで今回は「小切手に収入印紙がいらないけど、手形だと必要な理由は?」というテーマで
- 収入印紙って、何者?
- 小切手には収入印紙が不要で、手形だと必要…違いは何?
- 収入印紙を貼った後にも訂正ってできる?
- 手形を受け取ったら、領収証に収入印紙はいる?
という内容にまとめてみました。収入印紙に関する基本の2項目に加え、少し実践的な2つの疑問も一気に解決しちゃいます!
私は大学卒業後、中小企業の事務職として営業事務から経理事務まで一通りを経験しました。小さな会社ほど1人で管理する範囲は広く、内容も雑多に渡るものです。そんな中で働いていた私の経験や反省点も交えつつ、より実践的でわかりやすい解説を心掛けていきますね。
それでは早速、「収入印紙ってなんぞや?」というところから順に、知識を深めていきましょう。
※本記事内では、収入印紙⇒印紙、約束手形⇒手形 と言葉を省略して使っていますので、ご了承くださいね。
目次
小切手に収入印紙はいらないけど、手形だと必要になる理由
まずは基本から。「収入印紙って何のために必要なの?」ということも、ざっくり知っておきましょう。ちなみに収入印紙とは、手形に貼ってある”切手みたいな見た目の小さな四角いアイツ”のことです。
~収入印紙って、何?~
収入印紙とは、印紙税法という法律で定められた印紙を貼らなければならない文書(課税文書)に貼る、切手みたいなもののことです。「国税庁が定めた”印紙税額一覧表”に該当するものには納税の義務があるんだけど、収入印紙を買って貼ることによって手軽に納税できちゃうよ☆」という便利な仕組み。切手と同様、売買の金額によって納める金額が異なります。
切手は郵便料金を納めたことを証明するのに対し、収入印紙は税金を納めたことを証明するものという違いこそありますが、似たようなイメージですね。郵便局や法務局、店舗によってはコンビニでも買えます。
小切手に印紙がいらない理由とは?
小切手も手形も、それ自体を銀行などの金融機関に差し出すことで、お金に替えることができます。だからどっちも同じようなイメージなんですが、実はこの2つ、簿記の世界では別ジャンルとして扱われているんです。
- 小切手⇒いつでも換金できるので、現金と同じ扱い(※勘定科目も”現金”でOK!)
- 約束手形⇒「手形に記載した期日以降に支払いますよ~」という約束を書いた証書(※科目は”受取手形”や”支払手形”など、現金と区別します)
小切手は金融機関に対して「私の代わりに、私の口座からお金を引き出してあげてね」と委託するためのものです。(※実際のお金の動きはもう少し複雑なんですが、乱暴にまとめてしまえばこんな感じです。)受取人はいつでも小切手を換金できますので、通帳からお金を引き出すのと同様で、税金はかかりません。
一方で、支払いに関する約束を書いた文書である手形はどうなんでしょうか。
手形には印紙を貼る必要があります!
手形に印紙が必要なのは、国税庁が決めた一覧表に該当するから。
理由はシンプルにこれだけです。なぜ必要なのかと深追いするのはやめておきましょう。それよりも、先程説明した「なぜ小切手には必要ないのか」を理解しておいてくださいね。
印紙の代金は手形の金額によって決められていて、大きな金額ほど印紙税をたくさん納めることになります。
手形の金額 | 印紙代 |
10万円未満 | 非課税 |
100万円以下 | 200円 |
100万円を超え200万円以下 | 400円 |
200万円を超え300万円以下 | 600円 |
(※以下、300万円を超える金額については省略しちゃいますね)
そして印紙を貼る時に気をつけるべきルールは、この3つです。
- 印紙は手形の作成者(通常は振出人)が貼る
- 印紙が貼られていない手形を銀行に持ち込んでも換金できない
- 手形に印紙を貼ったら、必ず消印を押すこと!
印紙の代金はその手形の作成者(通常は振出人)が負担することになっています。金額が記入されていない手形を扱う場合には、金額を記入した人が印紙を貼ることになりますので注意してくださいね。
また非課税の手形を除き、銀行は原則として印紙の貼られていない手形の取立や割引(換金すること)には応じてくれないので要注意!手形に印紙が貼られていなかった場合、振出人が過怠税を取られてしまいます。
そして最後は消印です。消印とは一度使った印紙が再利用されるのを防ぐ為に押す印のことで、文書と印紙をまたいで押印します。これも切手と同じですね。消印に使う印(ハンコ)は、銀行の届出印鑑でなくてもOKですよ。
基本が理解できましたら、次はもっと実践的な疑問も解決しちゃいましょう!
印紙を貼った後の手形は訂正できるの?
「印紙も貼ったし、あとは先方に送付するだけ…」という時に間違いを見つけてしまったら、どうすればいいのでしょう?まず、一番覚えておかなくてはならないのは
金額の訂正はできないということ!
金額を間違えたら、必ず作り直す必要があります。金額の数字以外の部分(例えば宛名や振出人名など)であれば、訂正しても構いません。訂正方法は特に決まっていませんが、間違った場所に二重線を引き、訂正印として振出人の印鑑を押しておくのが良いでしょう。
ただ宛名の訂正などは失礼にもなりますし、作り直す方が望ましいでしょうね。
そして渡してしまった後の手形は、さらに訂正が難しくなります。渡してしまった時点で受取人のものですので、渡した後の場合は受取人の同意がなくては訂正できないんです。ちなみに裏書譲渡をした場合は、受取人と譲渡した先の両方からの同意が必要です。
結局作り直し…貼ってしまった印紙はどうすればいい?
印紙税法第14条にある通り、印紙を貼り付けた用紙の書損じなどは納税地の税務署で還付請求をすることができます。
手続きには印紙税が過誤納となっている文書(=間違えて作成してしまった手形など)と印鑑、法人での手続きの場合は代表者印も必要です。
”印紙税過誤納確認申請書”に必要事項を記入し、納税地の税務署長に提出することで請求の手続きはできますが、その場で直ちに還付金を受け取ることはできません。還付される税金は銀行口座振込あるいは郵便局を通じての送金となるため、還付金を受け取るまでに若干の日数がかると思っておいてくださいね。
手形を受け取るとき、領収証にも印紙は必要なの?
結論から言うと、必要です。
ただし10万円以下の手形が非課税だったように、領収証も5万円未満ならば印紙は不要です。
領収証の場合は5万円以上100万円以下で200円の印紙が必要となりますので、手形を振り出す時との印紙が必要な金額の違いには注意してくださいね。例えば9万円分の手形を受け取ると、手形の方は非課税でも領収証では印紙が必要となります。
「あれ?私、いつも領収証に印紙なんて貼っていないけど…?」と思った方は、おそらく別納タイプの領収証を使用しているんだと思います。
会社では収入印紙をいちいち貼らなくてもいいよう、印紙税を別納にするタイプの領収証を使ったりもします。私もそういうタイプを使う事が常でしたが、貼ってこそいないものの、ちゃんと別で納めている旨が印紙を貼る場所に書いてありますよ。そして月末などにいくら分使ったかを確認しておき、月ごとや決算期ごとにまとめて納付します。
ちなみに「別納タイプなら、書き損じもOKよねー」と思いたいところではありますが、そうでもないです。別納タイプは言い換えれば「収入印紙は印刷済み」という状態の領収証。悪用を防ぐため、書き損じも厳重に保管されて納付時に確認します。
こういった書面の管理がずさんだと、監査の時に脱税疑惑がかかる原因となりますので、書き損じの処理って結構面倒くさいものなんですよ。
もう1つ実際に処理をしていて困ることと言えば、領収証・領収書・受領書…と色々な言葉があって、「どれに印紙が必要なの?」とわからなくなってしまうことですよね。こういった領収証の類を、印紙税法では総じて”金銭又は有価証券の受取書”という言葉でまとめています。
ちなみに印紙税法に記載されている”金銭又は有価証券の受取書”とは、領収証や領収書だけでなく、受取書やレシートはなども含まれます。さらには請求書や納品書などに代金を受領した印として「代済・相済・了」といった言葉を記入したものや、「お買上票」と称するものも含まれます。
つまり作成の目的が「金銭又は有価証券の受領事実を証明するため」であれば、金銭又は有価証券の受取書に該当するので金額によって印紙は必要になるということです。
まとめ
<収入印紙とは?>
- 収入印紙(以下:印紙)とは、課税文書に貼る納税を証明するもののこと
- 小切手は現金と同様の扱いなので、印紙は不要
- 約束手形(以下:手形)は課税文書にあたるので印紙は必要で、印紙代は手形の金額による
<印紙を貼る時に気をつけるべき3つ>
- 印紙は手形の作成者(通常は振出人)が貼る
- 印紙が貼られていない手形を銀行に持ち込んでも換金できない
- 手形に印紙を貼ったら、必ず消印を押すこと!
<印紙を貼った後の手形は訂正できる?>
- 手形の金額の訂正はできない
- 宛名など金額以外の部分は訂正しても構わないが、失礼なので作り直す方が無難
- 譲渡後は訂正に受取人の承認も必要になる
- 書き損じた手形は税務署で還付請求することができる
<領収証にも印紙は必要>
- 印紙は金額が5万円以上から必要になる
- 手形を振り出す時と必要になる金額が異なるので注意が必要
- 領収証に限らず、金銭や有価証券を受け取ったことを証明する文書には印紙が必要になる
収入印紙は「手形や証書に貼らなくてはいけない」ということは知っていても、何となく謎の存在になりがちです。
「小切手には不要で手形には必要なのは、なぜ?」 というのは小さな疑問に過ぎませんが、理由をきちんと知っていれば、自信を持って仕事ができますよね。
また営業マンなど普段は事務に従事していない方も、支払方法の仕組みを詳しく知っておくことで金額交渉がしやすくなったりします。とはいえ、自分の担当以外の仕事を詳しく勉強する時間ってなかなかないですよね。
だからこそ、こういった小さな疑問から、少しずつ経理に関しても理解を深めていってほしいと思います。会社全体のお金の動きや会社同士のお金の流れを理解することは、利益計算や金額交渉など営業の場にも必ず役立ってくるはずです。
手形や小切手の記載ミスというのは、経理の管理レベルを問われる重大なミスです。外部に醜態を晒すというだけでなく、会社としても信用を失ってしまいます。
今はまだ経理をよく理解できていないという方も、こういった小さな疑問はなるべく解決しておくようにしてください。それを繰り返すことで理解は深まりますし、理解はミスを減らしてくれますよ!